A Fickle Child Psychiatrist

ー移り気な児童精神科医のBlogー

「子どもの精神科」が増えない理由 あれこれ

lessorの日記

「子どもの精神科」が増えない理由

 

lessorさんの記事。児童精神科医ではない方にここまで理解していただけるとありがたいです。きょう先生も書籍に書かれた甲斐があったのではないかと思います。実際自分の勤務している医療機関でも、成人精神科の予約は1枠6分が基本ですが、児童精神科は15分枠がデフォルトです。初診にも2倍以上の時間をかけているので、この診療報酬の設定では、確かになかなか苦しいところです。この記事について、当事者サイドから若干補足を試みてみます。

 

まず診療報酬に関してですが、外来は確かに厳しいけれど、入院に関しては徐々に改善が見られています。ここ数回の診療報酬改定で、児童・思春期精神科入院医療管理加算が新設され、その後、児童・思春期精神科入院医療管理料 に格上げされています。またlessor さんも触れておられる通院・在宅精神療法には、

3 20歳未満の患者に対して通院・在宅精神療法を行った場合(初診の日から起算して1年以内(区分番号A311-4に掲げる児童・思春期精神科入院医療管理料に係る届出を行った保険医療機関において、16歳未満の患者に対して行った場合は2年以内)の期間に行った場合に限る。)は、所定点数に200点を加算する。

と、専門病棟を持つ病院には更に有利な点数評価となっています。これを見る限りでは、厚生労働省は児童精神科については、アクセスのよいところに多数の医療機関を確保することよりも、高次医療(入院)に対応できる拠点整備に力を入れているということが推測されます。現に、現在児童精神科医療の整備は、子どもの心の診療拠点病院機構推進事業などが核になって進められているように見えます。この方針自体は現在の児童精神科医の数や、今後ますます養成を重視しなければならない状況では、わからなくもありません。クリニックを支えて下さっている先生方は大変だと思いますが…。

 

一方、子どもの精神科「医」はそれなりには増えてきている実感はあります。少なくとも、子どもの精神科「医」になりたい人は増えているように思います。地域差がひどくありそうなので、地域によってはまったく増えているとは思えない、というところもあると思いますが。ただ問題は、児童精神科医になりたいと思っても、なかなかトレーニングの場がない、あるいはトレーニングが終わったあと、児童精神科を中心とした診療ができるポストがあまりないために、一時は児童精神科医を志望した方が、結局は成人の精神科に戻ってしまう、という事態が起こっていることです。診療ニーズに応え切れていない状況では、これは好ましくありません。専門医はどうしても徒弟的な育て方になるので、教える人間がいないと、増えるスピードはなかなか上がりません。教える力のある人たちに、複数の児童精神科医を擁する教育的機能のあるポストで踏ん張ってもらう必要があります。

 

児童精神科のポストは、lessorさんも書かれているように、公的あるいは準公的な機関ばかりです。医師の視点からはこれは…給料が安いポストしかない、ということを意味します。医師の報酬は官低民高なので、どうしてもそうなるのです。今のところ児童精神科医は報酬にあまりこだわらない人が多い…というか、そういう人でないと児童精神科医の生活に耐えられないので、あまり問題にはなっていないようにも見えますが、ある一定以上数を確保していこうと思うと、そこも問題になってきます。

 

結論としては、とりあえず当面は、入院機能、研修機能などを持つ高機能な病院の整備に重点的にお金を回すのがよいように思いますが、いずれは民間でも採算があうような診療報酬体系に持って行かない限り、充分なサービスの普及は難しい、ということになりそうです。診療報酬が総体として伸び悩んでいる中で、児童精神科関連はプラス改定が続いているので、文句を言ってはばちが当たるのかもしれませんが…。