A Fickle Child Psychiatrist

ー移り気な児童精神科医のBlogー

Book Review 『他人(ひと)とうまくいかないのは、発達障害だから?~どうしたらいいの?に効く行動のヒント』

 奈良市にある「きょう こころのクリニック」の院長、姜昌勲先生から、新しいご著書を送っていただきました。どうもありがとうございました。

 

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『他人(ひと)とうまくいかないのは、発達障害だから?~どうしたらいいの?に効く行動のヒント』

 

 この本は、大人の発達障害の方とその周りにいる方々を主な対象として書かれています。発達障害を持つお子さんを診療してもらえる医療機関は、ずいぶん増えてきていますが、大人の方が診療を受けられる機会はまだまだ見つかりにくいのが現状です。それを踏まえて、ご自身によるセルフヘルプも想定しながら書かれているのが、この本の大きな特長です。もちろん受診の際のコツにも言及されています。

 

 また発達障害への対処は、あえて診断カテゴリーごとに細かくわけずに説明されています。これについては賛否があるかもしれませんが、成人の方の場合、受診に結びついたとしても確定診断が難しいことも多く、前述のようにセルフヘルプも念頭に置かれたこの本では、この方が実際的だと思います。

 

 本書の内容は発達障害の大人の周りで起こりやすい、様々な出来事に対する受け止め方のコツや具体的な対処方法の提案が中心です。ご本人が困っている場合はもちろんですが、周囲の人が困っている場合の対処の仕方にもページが割かれています。実際の困りごとへの対処について詳しく書かれたPart 3の中では、「発達障害の人への接し方九ヶ条」が提唱されています。その最初の項目が「時にはあきらめる」であるあたりにも、姜先生らしい柔軟で実際的なスタンスが垣間見えます。豊富な成人の診療の経験に基づいて、教科書的な対処法だけではなく、もう一歩踏み込んだ特性の「とらえかた」が示されています。

 

 全体に非常にコンパクトに過不足なくまとまっており、発達障害の基本的な知識や対応の原則などに、まず最初に触れるのに適した本だと思います。ご自分の困りごとや周囲の人の困りごとに、ひょっとしたら発達障害が関係しているのでは、と思われた時に、最初に手に取ってみるのにちょうどよさそうですね。

 

追記: そういえば一カ所誤植を発見しました。

p. 49

誤 各都道府県の政令指定都市に一つずつ、発達障害者支援センターが置かれるようになりました。

正 各都道府県と政令指定都市に一つずつ、発達障害者支援センターが置かれるようになりました。