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A Fickle Child Psychiatrist

ー移り気な児童精神科医のBlogー

DSM-5 「自閉症スペクトラム障害」雑感

かねてから予告されていたスケジュール通り、アメリカ精神医学会によりまとめられた DSM-5 が公表されました。本屋さんの触れ込み通りなら、日本では世界に先駆けて、書籍版が発売されています。これはちょうど今日から 第109回日本精神神経学会学術総会 が開催されていますので、それにあわせて先行発売されたということのようです。

 

大部なので、暇をみておいおい読んでいきます。自分のお勉強もかねてちょっとずつ記事も書いてみようかと思っています。今日のところは、とりあえず自閉症スペクトラム障害に関するセクションを少し読みました。以下、簡単なまとめと雑感。

 

自閉症関連の診断基準改訂の見通しについては、 旧ブログの記事 で少しふれたことがありますが、おおむねその頃の草稿の方向が維持されています。

大きな変更点は

  • 名称の変更(広汎性発達障害→自閉症スペクトラム)
  • 下位分類の廃止
  • 重症度分類の新設(支援の必要性に応じて Level 1〜Level 3 まで)
  • DSM-IV-TR の対人的相互性に関連する項目(旧A項目)とコミュニケーションに関連する項目(旧B項目)とが統合され、あわせて A項目とされたこと。
  • 感覚の過敏性や鈍麻、感覚刺激への強い関心などがB項目(旧C項目)に盛り込まれたこと

といったところでしょうか。訳語については、どうやらまだ関連学会などで検討中のようですが「自閉症スペクトラム障害」、または「自閉症スペクトラム」になる可能性が高そうです。

 

あとE項目で、知的障害や全般的な発達の遅れと自閉症スペクトラムとの関係が明確化され、知的障害との並存診断をする場合、社会的コミュニケーションの能力が全般的な能力から期待される水準を下回ることが求められています。

 

そして note で書き加えられている部分が、ある意味では重要かもしれません。

Individuals with a well-established DSM-IV diagnosis of autistic disorder, Asperger's disorder, or pervasive developmental disorder not otherwise specified should be given the diagnosis of autism spectrum disorder. Individuals who have marked deficits in social communication, but whose symptoms do not otherwise meet criteria for autism spectrum disorder, should be evaluated for social (pragmatic) communication disorder.

 これまでにちゃんと診断されていた人は、診断から除外されることはありませんよ、という保証がされています。これは Volkmar をはじめとするいろいろな人達からの批判や懸念の表明に応えたということなのでしょうか。あと、 social (pragmatic) communication disorder が日本でどのくらい使われるようになるのかは、ちょっと様子を見ないとわからない感じがします。

 

もう一つ目をひくのは、いくつかの specifiers が用意されたことでしょうか。DSM-IV の日本語版では「特定せよ」と訳されていたような気がします。

  • 知的障害の有無
  • 言語障害の有無
  • 知られている医学的、遺伝学的状況や環境要因
  • 関連する他の神経発達障害、精神、行動の障害(ADHDとの並存も認められています)
  • カタトニアの有無

カタトニアがここで強調されている意義は大きいのではないかと思います。日本でも一部の臨床家はカタトニアの存在をかなり意識していますが、案外気づかれていないことが見受けられるようにも感じていますので、これはよい刺激になるのではないでしょうか。

 

いろいろ変更点はありますが、全般にまずまず使いやすそうな基準ではあるように思います。重症度分類なども新機軸ですが、日本の臨床家であれば、年金や精神保健福祉手帳の診断書などをイメージすると、まずまずわかりやすいのかなと感じます。

 

とはいえ、明日から基準を変えるということをするわけではないので、自分の診断そのものにすぐに大きな変化は起こらないと思います。ただしばらく前から診断名を「自閉症スペクトラム」とお伝えすることが多くなっているのですが、それは更に増えそうです。今後、DSM-5 に基づいた論文や知見などが出てきたときに、改めていろいろと考えることになりそうです。ICD-11 の動向も、いろいろ気にはなりますが。

 

 次回は、ADHDに関してか、旧「V軸」の扱いに関してか、どちらかを書いてみようと思っています。期待しないで待っていていただけると嬉しいです…。