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A Fickle Child Psychiatrist

ー移り気な児童精神科医のBlogー

WHODAS 2.0 ーDSM-5における「V軸」の扱いの着地点ー

General Psychiatry

DSM-5 公開版に基づく記事の第2弾です。ひょっとするとADHDなどを取り上げることを期待しておられた方がいるかもしれませんが、それはきっと誰かが書いてくれそうなので、先になかなか誰も触れてくれなさそうな部分をご紹介します。

 

以前、このブログで DSM-5における「V軸」の扱いー国際生活機能分類(ICF)への接近?ー という記事を公開しました。詳細はこの記事を見ていただくのがよいと思うのですが、多軸診断を採用していた DSM-IV では、機能の全体的評定として、第V軸を位置づけ、GAF (Global Assessment of Functioning)尺度が用いられていました。実はこのGAF尺度による評価は、日本でも診療報酬制度の中で重症度判定に用いられており、経営的な観点からも重視されるというちょっと奇妙な現象も生じていました。

 

今回のDSMの改訂にあたって、前記の記事のように多軸診断は廃止されました。では従来第V軸で評価されていた内容は最終的にどのように位置づけられたのでしょうか。DSM-5 の Section III の冒頭が Assesment Measures という項目なのですが、この中に Cross-Cutting Symptom Measures と並んで WHO Disability Assessment Schedule 2.0 (WHODAS 2.0) が掲載されています。

この WHODAS 2.0 は、6つの領域の最大36の質問項目からなる尺度です。領域の構成は下記のようになっています。

  • Understanding and communicating (理解とコミュニケーション)
  • Getting around (移動)
  • Self-care (身辺自立)
  • Getting along with people (人と過ごすこと)
  • Life activities (household, school/work) (日常生活(家事, 学業/職業))
  • Participation in Society (社会参加)

 

WHODASには本人や代理人への聴き取りによるもの、自記式などのもの、短縮版など様々なバージョンがあるようですが、 DSM-5 の書籍そのものには自記式の36項目のバージョンが掲載されています。前記の WHODAS のサイトからPDFがダウンロードできます。

36-item version, self-administered (PDF)

 

この領域構成やそれぞれの質問項目を見ていただくと、同じくWHOでまとめられた ICF (International Classification of Functioning, Disability and Health) との相性がとてもよいのがわかっていただけると思います。それは当然で、上記のリンク先によればこの WHODAS 2.0 は、

Direct conceptual link to the International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF)

 と説明されています。最初から ICF の概念とのリンクを念頭に作られているわけです。厚生労働省のICFに関するページ には、構成要素間の相互作用に関する有名な図が掲載されています。

 

f:id:AFCP:20130525191934g:plain

 

WHODASではこの中の「活動」「参加」の部分がそれぞれカバーされていることがわかるかと思います。「健康状態」と「心身機能・身体構造」のうち精神医学に関連する部分は DSM-5の section II で分類されることになります(身体については ICD などを利用して表記します)。残念ながら環境因子、個人因子の評価はこの WHODAS そのものの中には含まれていません。

 

従来用いられていた GAF では、全体的な評定は重症度と機能のレベルの二つの軸で評価されることになっていました。これがWHODASに引き継がれることで、日常の活動や特に社会参加についての評価は、以前より詳細に行われることになります。 医師が ICF 的な障害観に接する機会が多くなることは、メリットが大きいのではないかと思います。更に踏み込んで背景因子、個人因子の評価にも今まで以上に目が向くようになると、患者、家族や支援者との理解の摺り合わせがより進むのではないでしょうか。

 

とはいえ、全国の精神科の日常臨床の中で、すぐに WHODAS が利用されるということはないかと思います。せめて医学生や前期研修医、精神科の後期研修医の教育の中で、こうした評価法や概念に触れる機会が増えることが望まれます。

 

診療報酬評価への関係については…あまり相性がよくなさそうなので、当分はGAFがそのまま使われるような気がします。

 

追記(2013.5.26):WHODASの日本語への翻訳作業がすでに2010年から 始まっているようです。

WHODAS2.0の日本語版を刊行へ―厚労省 - 医療介護CBニュース - キャリアブレイン

ちょっと探してみましたが、翻訳そのものはまだWeb上では見つけられませんでした。

 

東邦大学を中心に作業が行われていたようですね。

研究報告 WHODAS2.0日本語版開発調査研究に関する報告 :日本医事新報社

記事本文を見ていないので、どこまで開発が終わっているのか、ちょっとわかりません。