A Fickle Child Psychiatrist

ー移り気な児童精神科医のBlogー

日本におけるペアレントメンター事業 その後の展開

 旧ブログに 日本におけるペアレントメンター事業の展開 という記事があるのですが、おかげさまで最近でもかなりアクセスしていただいているようです。この記事は2010年7月に書いたもので、ちょっと古くなってきていますので、最近の動きについて少しまとめてみたいと思います。ペアレント・メンターに関する基本的な解説などは、前掲の記事をご参照下さい。

 

養成研修の拡大

 厚生労働省は平成22年度より、発達障害者支援体制整備事業の中で、都道府県、政令市がペアレント・メンターの養成研修を実施する際に、助成を行っています。

発達障害者支援施策の概要 (厚生労働省)

 

 これを受けて、筆者らが個人的に調査を行ったところ、平成24年度末までに約36の都道府県で発達障害のペアレント・メンター養成研修が開催されていました。

 

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この地図には、政令市単独による開催も含んでいます。個人的調査のため漏れがあるかもしれません。開催されているのに色がついていない都道府県の情報がありましたら、ぜひブログ著者までご連絡ください。また養成研修が開催されていなくても、他の地域で研修をうけたメンターが活動されている県もあります。 

 

 もちろん厚生労働省による施策化以前から養成研修を行っている地域も多く、これらが全て助成を受けているわけではないのですが、この施策化によって、全国でペアレント・メンター養成の気運が高まったのは確かです。

 

 また最近養成研修が開催された地域を見ると、実際の養成研修の前に、事前研修を行っている地域が増えてきています。実際に候補者を対象に養成研修を行う前に、地域の親の会や行政職員、発達障害者支援センターの担当者など関係者が集まって、ペアレント・メンターの養成や活動の実際、メンターに求められる資質などについてのレクチャーを受けたり、それぞれの地域でのメンター活動の展開について考えるグループ・ワークなどが行われることもあります。研修を受けた後、スムーズに活動を開始するためには、こうした事前研修を実施することが望ましいと言えるでしょう。またメンターに仕事を依頼する立場の人たちにも、養成や活動の内容について知ってもらうことで、活動を広げやすくなるかもしれません。 

 

ペアレント・メンター・コーディネーターの活動

 平成23年度からは、ペアレント・メンターの活動を調整する人(ペアレント・メンター・コーディネーター)を配置することも、厚生労働省による施策となりました。ペアレント・メンターは養成さえすれば、活動できるという訳ではありません。メンターへの仕事の依頼の取りまとめ、派遣するメンターの調整、活動報告の取りまとめ、難しい事例についてのサポート、継続した研修の企画など、活動をバックアップする仕組みが必要です。地域の行政機関や専門家、親の会などが連携してこうした仕組みを作っていくことになるのですが、そのキーパーソンとして働くのが、コーディネーターであると言えるでしょう。養成のみに留まらず、実際の活動に繋げるための施策として、コーディネーターの配置は非常に有用だと考えられます。

 

 今のところ、都道府県の施策として、コーディネーターの配置が行われている地域は多くははなく、まだ数県程度に留まっているようですが、今後養成研修の広がりとともに必要となってくる施策だと思います。 コーディネーターを担当するのは、ベテランのメンターであったり、行政、支援センターの担当者であったりと、地域の体制によって様々ですが、それぞれに得意分野、不得意分野があります。

 

行政、発達障害者支援センター職員向けの研修

 メンターの活動を地域に根付かせ、長く続けていくためには、メンター候補者だけが研修を受ければよいわけではありません。厚生労働省は全国の行政職員や発達障害者支援センターの職員を対象とした研修の中で、ペアレント・メンター養成や活動支援を取り上げています。また日本ペアレント・メンター研究会などでは、コーディネーターとその候補者を対象としたコーディネーター研修を開催しています。

 

メンター活動のメニュー

 各地でメンターの活動が広がるにつれて、メニューも更に豊富になってきています。

 山口県のシンフォニーネットによる出前ママ・カフェのカフェ・ドゥ・シンフォニア 、富山県発達障害者支援センターあおぞら の各種のサロン活動、鳥取県 などで行われている専門家によるペアレント・トレーニングへのメンターの協力、愛知県で行われている専門家(保育士、行政窓口職員、相談支援従事者、医師など)の研修へのメンターの協力など、活動の幅が広がってきているのを感じます。それぞれの地域の実情にあった、個性的な活動が増えてきています。

 

広報活動

 全国的のペアレント・メンター活動に関する情報提供が、日本ペアレント・メンター研修会によって運営されているサイトで行われています。

ペアレント・メンター Network Board 

各地の活動や研修に関する情報などがだんだんと集まってきています。

 

 いくつかの地域で、地域のメンター組織によるウェブサイトの運営が始まっています。

愛知県ペアレント・メンター等活動推進連絡会 

ペアレント・メンター鳥取 

 これらの地域はそれぞれメンター通信を定期的に発行しており、ウェブサイトからも読むことができます。

 また埼玉県自閉症協会などでは、サイトの中にペアレント・メンター事業のページを作成して、養成や活動の報告などを行っています。

埼玉県自閉症協会 ペアレント・メンター養成事業

 

今後の課題

 我が国におけるペアレント・メンター事業も、一部の地域の取り組みに留まっていた時代から全国に広がってきています。その一方で養成研修は開催されたものの、なかなか実際の活動につなげることが難しく、足踏みしている地域もあるようです。

 

 現在のところ自分の知る限りでは全国でのペアレント・メンター養成、活動の実態について包括的な調査や報告などはあまりなされておらず、まずは実態調査が必要かもしれません。また今後は各地の活動事例やサポート体制などの情報を蓄積してノウハウを共有していくこと、新しいサービスの立ち上げにあたって地域間でサポートしあえる機会を作って行くことなどが課題になってくるのではないでしょうか。

 

 発達障害に限らず、様々な領域でピアサポートが有効な支援方法であり、必要性が高いことがわかってきています。ペアレント・メンターの活動もその中の一つとして、地域の支援体制の中に根付いてゆくとよいと思います。

 

参考書籍

 

自閉症の子どもを持つ親のためのペアレントメンター・ハンドブック (ASDヴィレッジ出版)

こちらはAmazon での取り扱いはないようです。リンク先から購入できます。